「キング」と「クイーン」という名のRingの逸話——彫刻のつもりで作ったリング
こんなリングを見たことがあるだろうか。独特の世界観で話題の『GRAVITY』。「リングを着けたことがなかった」という男は、なぜジュエリーをデザインしたのか。彼が表現したかったのは、自分のなかに隠れていた”物語”だった——。
文・川上康介 写真・青木 弘(ポートレイト)
転載:GQJAPAN
グラフィックデザイナーとして活躍していたこうづなかばが「自由に自分の世界を描きたい」と思い始めたのは、10年ほど前だったという。
「40歳を超えて、本当に自分が作りたいものを考えたら、宇宙に行き着きました。架空のSF映画のカタログを作るような感覚で世界観、物語を考え、それをグラフィックで表現していきました。その星にはどんな生物がいて、どんな生活を送っているのか。そんなことを考えていくうちに2次元だった星や生物が頭のなかでどんどん立体になっていったんです」
こうづの作品は、2次元から3次元へと進化していく。彼が作ったオブジェは、数々の名作SF映画の影響を感じさせる。そして同時に音楽的で、ロックな雰囲気も醸し出している。
「ジュエリーやアクセサリーを作るつもりはなかったんです。でも僕の個展を見たあるジュエラーからデザインの依頼があり、そこからじゃあどんなものを作ろうかと考え始めたときに『ウェアラブルアート』という言葉が浮かんだ。ジュエリーを作る必要はない。彫刻を作って、そこに指が通る穴が空いていればいいんじゃないかと(笑)」
こうして誕生したのが『GRAVITY』だ。従来のジュエリーと異なるアプローチでデザインされたリングは、こうづのオリジナリティにあふれている。
「リングには魔除けとかお守りという役割もある。『GRAVITY』は、人と人、人と時代を引き寄せる引力のような存在になればいいと思っています」
アクセサリーは苦手という男は多い。だがアートを身に着けると思えば、抵抗もなくなるのではないだろうか。
GEM VISIONS THE BRIDAL BOOK® SWAROVSKI
「スワロフスキージェムストーンズ」の世界カタログの表紙を飾るこうづの作品。太陽系をモデルにしたティアラは、ジュエリーというよりはアート作品のような佇まいだ。